小児二次救命処置法 PALS (2002年) Pediatric Advanced Life Support
国立成育医療センター救急診療科 清水直樹
I. PALSとは
Pediatric Advanced Life Support(以下 PALS)とは、米国心臓協会(American Heart Association、以下 AHA)が米国小児科学会(American Academy of Pediatrics、以下 AAP)などと協力して提唱している、小児二次救命処置法のことである。本邦では Advanced Cardiovascular Life Support(以下 ACLS)と比較すると成人領域での知名度が高くはないものの、欧米では広く知れ渡っている。米国やカナダで小児科レジデンシーを開始もしくは修了するには、原則として PALS を習得していることが義務付けられており、現在では欧米のみならずアジア諸国も含めて取り入れられている世界標準的なプロトコールである。
成人領域では ACLS が1970年代にはじまったが、引き続き PALS が1980年代から AHA と AAP との協力で普及開始されるに至った。AHA が採った、米国で成功した救命蘇生法の普及手法を広く世界と共有しよう、との基本姿勢は国際的に大きな影響を与え、カナダ心臓・脳卒中財団、ヨーロッパ蘇生会議、オーストラリア蘇生会議、南アフリカ蘇生会議、ラテンアメリカ蘇生会議が次々に結成され、1992年には国際蘇生法連絡委員会(International Liaison Committee on Resuscitation、以下 ILCOR)が組織された。
こうして救命蘇生をとりまく国際的交流が進む中、本邦では日本蘇生協議会(Japan Resuscitation Council、以下 JRC)が厚生労働省管轄の救命救急財団の傘下で結成され、ILCOR への参画を果たしたものの、日本小児集中治療研究会(Japanese Society of Pediatric Intensive and Critical Care 、以下 JSPICC)が直接 AHA と連携をとってきた以外に、小児科関連諸学会からの働きかけは現在まで受身に終始してきた。JRC が組織されたことにより、正式な ACLS の日本への普及の道が得られたものの、その実現への道程はまだ明確ではない(2002年時点)。それは、日本が国際的なガイドラインを翻訳して講習会を開くなどの利用はしてきたものの、ガイドライン策定自体に積極的な役割を果たしてきてこなかったことや、PALS/ACLS 認定施設での臨床経験者がほとんどいないこともあり、品質保証の点から AHA が正式な認定を出しにくかったことが背景にある。
今般、PALS Instructor の資格を得て帰国した際に、国立成育医療センター手術集中治療部の宮坂勝之部長が北米の PALS 認定施設で指導者として勤務した実績およびガイドライン策定に関与してきた実績を認められ、JSPICC が日本で最初の AHA の ITO(International Training Organization)として認定された。これはまた、アジア圏で初の PALS-ITO でもある。2002年4月22日から26日に行われた最初の講習会には、AHA から指導教官 Dr. Swanson および担当官 Mr. Ricaurte が派遣され、その指導の下で PALS プロバイダーおよびインストラクターの両コースが開かれた。これにより宮坂勝之部長がコースディレクターとなり、加えて6名のインストラクターが AHA から認定を受け、JSPICC 管轄の下に国際的に通用する正式な PALS プロバイダー認定が行えることになった。